アイスマンの謎
2013年3月、NHKスペシャルでとても興味深い番組をしていました。「完全解凍!アイスマン~5000年前の男は語る~」という番組でした。5000年前に生きていたアイスマンが、どういう物を食べ、どういう暮らしをしていたのか、不自然な左手の位置はなぜなのか、解明されていきました。
アイスマンの発見
「アイスマン」とは、世界最古の冷凍ミイラのことです。1991年9月19日にドイツ人夫婦がアルプス登山をしていました。エリカ・ジーモンさんは、午後1時30分に10m先に茶色の物を発見しました。近づいて見ると、氷が溶けて遺体が見えていました。標高3210mのイタリア・オーストリア国境付近にあるアルプス氷河から奇跡的な保存状態で発見されました。
解凍調査始まる
5000年前のミイラ楽天 や着衣、道具類が氷の中で保存されていたので、文字の無かった当時の暮らしぶりや文化、風習などを知る重要な資料となりました。この冷凍ミイラは、発見から20年間厳重に冷凍保存されていましたが、この度解凍し徹底的な調査が始まりました。
脳、内臓、骨、血管など149点ものサンプルを取り、世界中の研究者によって分析されました。
年代を測定
考古学者によって持ち物や、骨の中の炭素14などから、5300年前の人間とわかりました。大切な古代の資料アイスマンは、-6℃、99%の湿度の中で保存され、2ヶ月に1度水をかける作業が続けられて来ました。
しかし、体が凍っていると、体の表面しか調べられないことから、解凍して脳や胃などを詳しく調べることになりました。
冷凍ミイラ、アイスマンとは
アイスマンは、男性、身長160cm、体重50kg、46歳前後とわかりました。メソポタミア文明の頃に生きていました。日本では、縄文時代の頃になります。
人工のミイラは、内蔵を取って乾燥して作られています。しかし、このアイスマンは自然のミイラで内蔵があります。内蔵があることで、いろんな情報が得られるのです。
アイスマンの体中からサンプルを取るために、-6℃から18℃まで上げます。しかし損傷を最大限に抑えるために制限時間は9時間に設定し、24人のチームを組んでとりかかりました。この準備に2年も要したそうです。
胃の内容物からは、食生活などの暮らしぶりが分かります。口から内視鏡を入れようとしましたが、つかえて断念。腹部を切り、胃から200gの固まりを取り出しました。
脳は、頭蓋骨に5mmの穴を開けて取り出しました。他には、皮膚、肺、腸、大脳皮質、前立腺などの149点を採取し、世界各地の研究所へ送られて分析されました。
採取したサンプルからの分析
- 胃の内容物
- アイスマンが死の直前に食べたものが分かりました。動物の脂肪、動物の毛、植物です。動物はアイベックスという山羊、シカやウサギの痕跡もありました。植物では、ハーブがありました。多様な食材をバランス良くおいしく食べようとしていたことが分かりました。小麦は水を使って加工していました。腸にススの粒子が見つかり、パンを焼いていたことも分かりました。
- 古代エジプトでは、8000年前からパンは作られていましたが、貴重なもので給料として使われました。イタリアとオーストリアの国境辺りでも5300年前にパンを食べていたので、狩猟から農耕へと変わっていたようです。
- 銅の斧
- 銅の斧は、99.7%の銅でできていて、高度な精錬技術があったことが分かりました。
- 靴
- 靴は靴底は熊の皮ででき、保温用に干し草が詰め込まれていました。
- マント
- マントは山羊の皮でできていて、明るい色と暗い色の縞模様がおしゃれでした。
- 皮膚
- 右膝の内側に十字の印が、アキレス腱のそばには謎の模様がありました。ススを検出し、刺青の後で、服で隠れる場所にありました。検証の結果、現代の鍼灸の位置と重なっていて驚いたそうです。背中や左くるぶしなど15箇所に印がありました。これは、腰をいためたた人のツボに当たるようです。x線写真から、腰椎が前に出た腰椎すべり症であることがわかり、腰が痛かったこともわかりました。5300年前に高度な医療が行われていたこともわかりました。
- 胸部
- 胸部x線から、左肩に異物矢じりが見つかりました。後ろから矢でいられ瀕死の状態になったようです。腸から花粉が見つかったことから、モミが生える高地を何かから逃げていたと推測されました。
- 脳
- 脳のサンプルからは、丸い小さな円盤状のもの、赤血球が見つかりました。また、後頭部には出血の後がありました。左目の上には傷がありました。矢で射られた後、石で頭を殴られたようです。
- 左腕
- アイスマンの左腕は右肩の少し上に向けて不自然に折れていました。右手は体から少し離れ自然に下に下がっていました。左腕が不自然なのは、犯人が矢の柄を持って帰るのに、遺体を無理やり動かしたためと考えられています。矢の柄を残すと犯人が割れる恐れがありますから。
この度の調査で、5300年前のアイスマンが生きていた時代の今まで知りえなかったことが次々に明らかになりました。しかし、まだ、これから先いろんな科学や技術が進んだらもっともっと解明できることがあるはずです。
そこで、胃の内容物も半分体に返し、将来の人に貴重な冷凍ミイラ・アイスマンを託すべく、また冷凍保存されました。