色彩の魔術師・伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)

NHKで「若冲 ミラクルワールド 特別編」を放送していました。今まで、伊藤若冲という画家をよく知りませんでした。鶏の絵は見たことがありましたが、名前は覚えていませんでした。

この番組を見てから、伊藤若冲の作品をより興味を持って見られると思いました。まだまだ、絵の中に謎が隠されていそうで、伊藤若冲が「まだ、見破っていないぞ」と、笑っているかもしれませんね。

伊藤若冲とはどんな人

1716年に京都の錦市場にある青果問屋の息子として生まれました。家業に身が入らず、絵を描くことが大好きだったそうです。そこで、絵を習い色彩の綺麗な中国の絵を1000点も模写したようです。

しかし、模写だけでは飽きたらず、自分も本物を見て描こうと思ったようです。40歳で家業は弟に譲り、絵に専念しました。鶏を庭に飼って観察し描きました。

85歳まで長生きし、その間には革新的な絵の技法を試し実践していました。晩年の伊藤若冲は天明の大火により窮乏していたようで、石峯寺の傍らで隠棲していたそうです。若冲によって作られたと伝えられる伊藤若冲の名前がある石像群が残されています。

伊藤若冲の絵について

皇室の名宝の中に伊藤若冲楽天 の描いた「動植綵絵(どうしょくさいえ)」という絵があります。伊藤若冲が40歳初めから10年かけて描いた絵だそうです。

絵の具は25種類あり、最高級の物が使われました。好んで使ったのは、辰砂(しんしゃ)という赤い石を砕いて作った絵の具でした。群青(ぐんじょう)は、やはり石を砕いて作ります。群青は、薄く塗っても色が出るそうです。胡粉(ごふん)は、白色で貝殻を粉にして作られています。

そんな絵の具を使って、絹の布の上に描かれています。地位の高い人に描く時には絹地が使われました。

芍薬群蝶図(しゃくやくぐんちょうず)

芍薬群蝶図(しゃくやくぐんちょうず)は、芍薬の花がいくつもの赤系の色で塗られ華やかです。

赤の絵の具は2種類使われているようです。辰砂(赤い石から作られる)のグラデーションと辰砂の上から黄色を塗った赤があります。

もう一つの赤は、おしべに使われていますが、赤を塗った上に白を重ねて塗り、薄いピンク色に見せています。濃いピンクは白の上に赤を塗り、くすんだ赤は赤の上に黄色を塗り重ねています。塗り重ねによる技工でいろいろな赤を作り上げていました。

芍薬の花粉の部分を立体的に見せる工夫

芍薬の花の中心部の直径3cmの花粉の部分に、立体的に見せる工夫が発見されました。

花粉の部分に絵の具が剥落した部分がありました。そこには、緑色の下地が見えていました。その緑の下地の上に、白い胡粉を点状に数mmという大きさで200個も置かれていました。その上に、赤い点々が1mmの小ささで置かれていました。その上に、黄色を薄く塗ってあります。

そして、そこには不思議な立体感が感じらるのです。

秋塘群雀図(しゅうとうぐんじゃくず)

秋塘群雀図(しゅうとうぐんじゃくず)は、スズメがたくさん大空から舞い降りている絵柄です。下には粟の実に集まるスズメが描かれています。たわわに実った粟の実は、1粒1粒の重さを感じるような絵となっています。

粟の実の中に、黄色の絵の具をかすかに盛り上げてふっくらと見せています。その黄色の中に0.5mmのくぼみを作って立体的に見えるような工夫がされています。超細密な絵となっています。

また、一羽のスズメには、特別な工夫が施されていました。絹目は0.5mmぐらいですが、0.1mm以下の橙色(鉛丹・えんたん)の点々が塗られていたそうです。この点々は肉眼では見えませんが、発色の効果を狙って塗られていたようです。

塗り重ねる度に細かい描写になります。色彩の魔術師・伊藤若冲は、発色の効果を完全に理解していたと思われるそうです。スーパーハイビジョンが初めて捉えました。

向日葵雄鶏図(ひまわりゆうけいず)

雄鶏の羽根の中の1本1本の毛、幅1mmにもならない線がたくさんあります。そして、近くで見るのと引いて見るのではまた違った物が見えてきます。

寄ってみると、1色と思われていた物が数えきれない色が使ってあります。引いて見ると、光って見えたり、立体的に見えたりします。

紅葉小禽図(こうようしょうきんず)

紅葉小禽図(こうようしょうきんず)は、赤いもみじが美しい絵です。赤いもみじの葉の1枚1枚の色が微妙に異なっています。赤い葉を濃淡をつけて描いています。

まだ若い少し黄色いもみじ、今が盛りのもみじ、枯れかけて黒味がかったもみじなど、もみじが1枚1枚個性を持っているようです。

絹地の裏側からも絵の具を塗るという技法で作られていました。裏彩色(うらざいしき)という古くからある技法です。裏彩色(うらざいしき)は、裏と表から同じ色を塗るのが基本です。平安時代の普賢菩薩像などの顔は、裏と表から白を塗り一層白くなり、絵の具も落ちにくくなっています。

伊藤若冲は、全く新しい裏彩色の使い方をしていました。

表に赤、裏に橙色。ピンク色のもみじは、裏から赤のみを塗っていました。表に先に赤を塗り、黄色を一面に塗ったもみじもありました。もみじの1枚1枚の個性を出すために裏彩色を使ったようです。

群鶏図(ぐんけいず)

群鶏図(ぐんけいず)は、13羽の鶏がひしめいています。真正面を向いた鶏もいます。1羽1羽が生き生きとした瞬間を描いています。

普通の人は鶏というと鶏という言葉で納得し、あまりよく見ないようです。伊藤若冲は、鶏ではなく、「この鶏」を描きました。鶏の動きを通して、生きていることを感じ、描いたようです。

老松白鳳図(ろうしょうはくほうず)

老松白鳳図(ろうしょうはくほうず)では、鳳凰が独特の輝きを放っています。鳳凰は、中国の伝説の鳥で、平和を象徴する聖なる鳥です。

鳳凰の輝きは、これまでは金泥が使われていると考えられていました。しかし、金泥は使われていませんでした。

黄土(酸化した鉄でつくられる)を裏から塗っていました。金は使われていないが、絵を見ると金色に見えるのです。

金色に見える謎

金色に見えるには、光沢があるからです。そして、強く光る白っぽい部分と周りの黒っぽい部分が重要となります。地が黄色で、白と黒が揃って金色に見えるそうです。

絹地に白で鳳凰を描きます。裏から黄土を塗ります。その奥に黒い紙の肌裏を貼ります。そして、金色に見せていました。伊藤若冲は、複雑な金の特徴をよく知っていました。絵の裏に貼られた黒い紙、普通は白い紙を貼るそうです。ここに伊藤若冲の工夫が見られました。

表現の仕方が金属の光沢と同じようで、脳には同じように見えるそうです。伊藤若冲でも、試行錯誤の末にたどり着いたと考えられています。

独特な金の表現、極彩色、超精密画、伊藤若冲の技はとどまることを知らずと、番組でも言っていました。

水墨画の傑作

普通の水墨画は、墨の濃淡で山や川などを描きます。が、伊藤若冲は、筋目描き(すじめがき)という手法を使っていました。

輪郭を線で引かずに、墨の濃淡で描くというものです。筆を置いては墨をにじませ、その境界が白く残ることで鱗や花びらの形ができあがるそうです。

菊花図での筋目描きでは、花の柔らかさを表現しています。筋目描きでは、特別な紙を使います。普通は和紙を使いますが、筋目描きをする場合には宣紙(せんし)を使います。(日本では画仙紙と言い、中国では宣紙と言います)わらが材料の宣紙は、繊維が細かく目が詰まっているそうです。宣紙は、墨のにじみが程よく出るようです。

宣紙は安徽(あんき)省涇(けい)県宣城や福建省でも作られてるそうです。高級な宣紙は、安徽省産のものが良いそうです。安徽省の宣紙は、稲わらからできていて、少量の「たんぴ」を混ぜているようです。福建省の宣紙は竹から、河北省の宣紙は桑からできているそうです。

芭蕉雄鶏図(ばしょうゆうけいず)

芭蕉雄鶏図(ばしょうゆうけいず)では、特に雄鶏の体の羽根や胸の羽毛が筋目描きで柔らかく表現されています。筋目描きでは、墨の濃淡と筆のスピードが重要になってきます。

墨をゆっくりと重ねると筋目は太くなり、早く重ねると筋目は細くなります。濃墨はゆっくりと小さく広がり、薄い墨は早く大きく広がります。

墨の濃さとスピードを計算しながら筆を運びます。相当の鍛錬をしないと思うように操れないようです。

「雨龍図」などの龍は筋目描きで体を描いています。400回も筆を重ねているそうです。スピードも必要ですし、いちいち考えていたのでは間に合いません。体が、手が、墨のにじみ具合を熟知していないと筋目描きは使えませんね。

キキョウの花
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Author:Tomoko Ishikawa Valid HTML5 Valid CSS

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更新日:2018/06/07